AIMAによるヘッジファンド業界におけるオルタナティブデータ活用についての調査レポート”Casting the Net”が5月4日にリリースされました。
サーベイに回答したヘッジファンド100社のうち53%が既に使用、14%がトライアル中と回答。
既に使用しているヘッジファンドの25%は5年以上オルタナティブデータを使用してきたヘビーユーザーです。
また、ヘビーユーザーの21%は9セット以上のデータを活用する等、データ活用に習熟したファンドと現在全く活用していないファンドの2極化の進行が見てとれます。
このサーベイに日本ベースのヘッジファンドからの回答は無かったとのことですが、JIAMのサーベイ(リンク)で明らかになった日本の資産運用業界におけるオルタナティブデータの活用の現状と今後の課題について読み比べると、以下の共通点も見られます。
- アルファ創出や投資意思決定支援の為の活用が中心だが、リスクマネジメント等投資以外の業務オペレーションに活用するケースも見られる。
- オルタナティブデータ取得コストの扱いについて業界におけるベストプラクティスがまだ確立していない。
- データの品質への懸念
- オルタナティブデータの法規制上の立ち位置の曖昧さへの不安
1-5年以内の更なる利活用の拡大をヘビーユーザーの6割が予想しており(その他企業だと8割)、日本の業界にもこうした動きは伝播することでしょう。 世界のヘッジファンド業界のオルタナティブデータ活用の現状、また先行者たちが得た学び、直面する課題について詳しくまとめられています。(レポート本体リンク)
以下、日本語でのサマリーです。
AIMA ”Casting the net” (How Hedge Funds are Using Alternative Data)
■サーベイの手法、回答企業属性
100のHFを調査(うち53%が User, 47%がnon-user。 トライアルだけのファンドはNon-userの扱い)。調査対象数社と、データベンダー数社にはヒアリングも行っている。
5年以上オルタナティブデータを使用しているユーザーをMarket Leaders(25%)、5年未満をRest of the Market(75%)に分類。
Market Leaderの46%はUSD50億以上のAUM (即ち、それ以下のAUMのヘッジファンドでもオルタナティブデータを活用している)
Market Leader の53%が北米ベース
■オルタナデータ活用の現状
- Market Leadersが最も使うデータタイプーweb crawled data, data source from expert networks, consumer spending data (including payment data), business performance metrics, social sentiment
- Resf of the market が最も使うデータタイプ - web crawled data, social media sentiment, consumer spending data (including payment data), data source from expert networks, business performance metrics
- Market Leader はRest of the marketに比べ、より多くのデータセットを使う傾向にある。Market Leaderの21%が9セット以上、54%が7セット以上、62%が4セット以上と回答 (Rest of the market ではそれぞれ0%、8%、41%)
- Alt Dataの使用目的についてはMarket Leaderは69%がアルファ獲得及び意思決定改善のためのリサーチツール、62%が投資機会発掘の為のリサーチツールとしてと回答。23%がマネジメント、コンプライアンス改善等内部プロセスの改善(Operational alpha 獲得)とも回答。Rest of the marketでは44%がアルファ獲得と回答。
- 「ファンダメンタル戦略とクオンツ戦略ではオルタナティブデータの使い方は大きく異なる。ファンダメンタル戦略ではPMの投資仮説をバックアップする為に使われる。例えば小売業界への投資ポジションの今後を考えるのにクレジットカードデータ等を入手して決定する。クオンツ戦略ではデータを分析することにより投資仮説を作っていく」(Olga Kokareva, Quantstellation)
- 「オルタナティブデータは例えば地理的な偏り、サプライチェーン等を分析することにより潜在リスクを炙り出し、リスク・リターンの算出に大きなインパクトを与えられる」(Factset)
■オルタナデータ活用の課題
最適なインフラ(データ品質含め)を整備すること(Market Leader- 49% Rest of market – 54%)、ROIを証明できること (Market Leader-27% Rest of market -29%)、法規制・コンプライアンス面での課題 (Market leader – 20%, Rest of market – 15%)が主要な課題として挙げられた。それぞれを以下詳しく見ていく。
1)データの質・最適なインフラ
- インフラ面ではデータの品質についての課題が多く指摘された。Market Leaderの77%が過去データをバックテストする難しさ、54%が良質なデータを調達する難しさ、31%が既存システムとのコンパティビリティを挙げている。
- データセットの急速な増大を課題ととらえるPMもいる。
「10年前はベンダーやデータセットを見つけることが課題だったが、現在は5000以上のデータセットがある中でこれらのデータを評価し、投資への活用に最適なデータを抽出するプロセスを築かなければならない」(Lombard Odier)
- オルタナティブデータ活用についての監督権限を持つ人物として38%がCIO/PM、19%がCOO、11%がCCOと回答。専任のChief Data Officerがいると回答したのは15%に留まる。
- Market Leadersの46%は投資運用チームの時間の1/5 以上をオルタナティブデータ取り扱いに費やしている。85%がData Scientist の採用を検討、半数がData Engineerの採用を検討。
「データサイエンティストたちが新しいクオンツ運用ファンドである」(Greenwich Associates)
2)ROI獲得の証明・データ活用の正当化
- オルタナティブデータの価格は活用の障壁になっていない。調査対象企業のAUM累計の3,820億ドル に対して累計支出額が2.5億ドル程度なので総AUMの0.1%にもならない。
- Market Leaderの53%が、経費(人件費除く)の5-20% をAlt Data活用に費やしている。
- オルタナティブデータへの支出を上回るリターンを得られたかを検証するアプローチがDiscretionaryとQuantitativeでは異なる。Discretionary ではPMがコストを吸収する場合、より客観的にAlt Data活用がペイしたか検証できるが、投資機会とそれをモノにする為の方法論はPMにより異なるため、客観的検証が難しい。
- それに対し、Quantitative ではオルタナティブデータを使うにあたり目標Alphaを出すために許容されるコストを先に設定するアプローチを取るため、よりオルタナティブデータにより得られるパフォーマンスを定量的に検証しようとするインセンティブが働く。このように、色々なアプローチがあるがBest Practiceはまだない。
3)コンプライアンス面での課題
- データ活用を巡る規制が無いということではなく、オルタナティブデータ活用に際しての業界横断的なフレームワークの欠如が、活用への不安をもたらしている。
- 法的な空白を埋めるような重要な法的、規制面での法学的な取り組みが最近見られるようになってきている。
- 特に活用が不安視されているのが、衛星画像データ(車両の往来をとらえるカメラの据え付けは州政府の許可を取って行われているものの、このデータを活用する優位性はアンフェアではないのか?)やウェブトラフィック(プライバシー侵害への懸念)。
- Exclusiveなデータセットを活用できるのは魅力的な競争優位性に見えるが、インサイダー取引規制や競争法に抵触しないか懸念する声も聞かれた。
■オルタナデータの将来
- Market Leaderの61%は1-5年以内により広く活用されることを予想。Rest of the marketの82%も同様の回答。
- オルタナティブデータ活用拡大のために何が必要かについては、以下の回答。
Market Leader
1 データ収集、格納、分析に適した技術インフラ・キャパ (92%)
2 データ活用できる人材の採用とリテンション( 69%)オルタナティブデータ投資を評価する時間(69%)
3 データの信頼性、Relevance (62%) 支出に対して遜色のないROI実現(62%)
Rest of market
1 データの信頼性、Relevance(87%)
2 データ収集、格納、分析に適した技術インフラ・キャパ (72%)
3 支出に対して遜色のないROI実現 (51%)