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IAVelocity(現Engine) 英国資産運用業界団体の運用ビジネスデジタル化への挑戦

2020.04.23 (Thu)

 

The Investment Association(IA) は英国の運用会社250社から成り、発足して60年を迎える英国の資産運用業界の団体です。彼らが2018年10月からIA Velocity (4月22日よりEngineへ改称)というフィンテック・アクセラレーター事業を運営していることを耳にし、JIAMでは、今年1月末にロンドンで面談、IAのDeputy Chief Executive のJack Knight氏とVelocityの運営を率いるGillian Painter氏にその活動について話を聞くことができました。

 

IA Velocity を立ち上げたきっかけは、他の金融分野に比べて資産運用業界のデジタル化への動きが遅かったこと、一部大手運用会社ではデジタル化へ向けての独自の取り組みも始まろうとしていたが、業界全体の課題として認識しなければならない、という危機意識からでした。また、業界のデジタル化に向けたポリシーが固められていない中、まずはプロモーションを(”Promotion over Policy”)と、資産運用業界を変革しようとするバイサイド向けスタートアップと協会会員の運用会社をマッチングすべくIA Velocityはスタートしました。

 

IA Velocityスタートに合わせ、運用会社会員以外にフィンテック企業向けのIA Fintech Memberが導入され、現在約100社のフィンテック企業が加入しています。資産運用業界向けフィンテック企業の大きな特色として、運用会社での勤務経験で痛感した非効率性や課題を解決する為に起業したという、「25歳の若者ではない」マチュアな創業者が多いのだそうです。以下の会社はその一例です。

 

Opus Nebula: 手数料収入の圧縮と顧客からのより精緻なレポーティング要求に悩む運用会社向けにクラウドベースのレポーティングツールを運用業界出身の創業者たちが2015年に開発。

Essentia Analytics:ファンドマネジャーが有するトレーディングデータを行動分析ツールと掛け合わせて、意思決定を分析、改善へとつなげる。創業者はドイチェやヘッジファンドでポートフォリオマネジャーとして活躍。

 

IA Fintech Member企業は年間1200ポンドの会費を支払い、協会の情報リソースやネットワーキング機会を活用できる他、IA Fintechメンバーであることにより営業先企業の信頼感、安心感を得られる等ブランド効果を享受できます。また、年に2回、IA Velocity が重点的に育成するVelocity Innovatorsの募集があり、各回5社が選出されます。選出はIA会員企業の大手運用会社

のデジタル責任者らから成るAdvisory Panelにより行われ、選ばれた企業は Panelから付くメンターやIAのポリシー、規制等の専門家等からアドバイスを受けながら、6か月間、事業開発・商品の改善等に取り組み、最後にDemo Dayにて成果を披露します。また、IA Velocity は大変SNS発信に積極的で、スタートアップ企業の情報もよく配信されます。

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ちょうど2日後にIA VelocityのTech Talkというイベントが開催されるとのことで、見学してきました。テーマは「Digital Distribution」、100名ほど入る会議室がほぼ満席でスタートしました。

最初にGAM Asset ManagementのChief Digital Officerが高齢化の加速、Decentralised Finance(DeFi)等、金融業界を取り巻く大きなトレンドを解説、こうしたトレンドをとらえたフィンテックのユニコーン企業が続々輩出される中、変化に遅れてしまった資産運用業界が顧客との関わり方を刷新するDistribution 2.0に取り組む必要性を講演。次にDistribution 2.0を実践すべくSchrodersグループの新しいウェルスマネジメント事業Schroders Personal Wealthを立ち上げた同社のChief Digital Officerより、新事業立ち上げにあたって留意したポイント(例、「クラウド・ファースト」、後付けではなく事業開発段階からデータアナリティクスの組み込み等)を講演。

コードを書けなくても、優れたフィンテック商品をAPIを使ってレゴ・ブロックのように組み立てれば、デジタルサービスを提供できると聴衆にアドバイス。API接続については、最後のスタートアップを交えたパネルセッションでも議論されました。

 

 

IA Velocity の意欲的、かつIAの組織力をバックにした活動に圧倒されましたが、TechTalkは規模こそ大きいものの、JIAM Fintech Squareで昨年6回シリーズで開催した「資産運用xFintech」ワークショップとフォーマットが良く似ており、JIAMと資産運用業界のデジタル化に向けて見ている方向性と取り組みが重なることに勇気づけられました。IAはデジタル化についてシンガポールやベルギーの現地団体と国際連携を始めており、JIAMもこのネットワークへの参加を現在打診中です。

Engineと改称してさらにパワーアップする活動から今後も目を離せません。

(竹腰尚美)

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